ある中堅企業に勤める佐藤さんは、念願だった実家の二世帯リフォームを終えましたが、確定申告については「自分は会社員だし、源泉徴収されているから関係ないだろう」と思い込み、何の手続きもしませんでした。しかし、これが大きな間違いであったことに気づいたのは、リフォームから二年が経過した後のことでした。佐藤さんのリフォームは、親の介護を見越したバリアフリー化と、断熱性能を高める省エネ改修を含んでおり、総額で八百万円を投じていました。本来であれば、特定の改修工事に対する税額控除として、数十万円単位の所得税還付を受けられる可能性があったのです。さらに、住民税の控除も受けられたはずでしたが、申告をしなかったためにその権利はすべて埋もれてしまいました。佐藤さんのように「給与所得者だから確定申告は不要」と考えるのは、還付金を受け取る権利を自ら放棄していることになります。リフォームによる税金の還付は、会社が自動的に計算してくれるものではなく、本人が申告書を作成して初めて実行されるからです。申告をしないことで失われるのは、現金だけではありません。家計のキャッシュフローを改善し、ローンの返済を早めたり、子供の教育資金に回したりといった、将来の選択肢までもが狭まってしまうのです。また、佐藤さんはリフォームの一部費用を父親から援助してもらっていましたが、その資金移動を税務署に説明する術も持っていませんでした。もし税務調査が入れば、その援助金は「贈与」とみなされ、非課税枠を超えた分に対して高額な税金が課せられるリスクを抱えたまま過ごすことになります。このように、申告をしないという選択は、単に「お金が戻ってこない」という不利益だけでなく、法的なリスクや精神的な不安を将来に残すことにも繋がります。最近の調査によれば、リフォーム減税の対象となる工事を行いながら、実際に申告をしている人は全体の半数程度にとどまると言われています。つまり、多くの人が数十万円という大金を、ただの「手続きの手間」と引き換えに見逃しているのです。確定申告の時期に数時間、書類と向き合うだけで、一ヶ月分の給料に匹敵するような金額が戻ってくることを考えれば、これほどコストパフォーマンスの良い作業は他にありません。リフォームは住まいを新しくするだけでなく、自分たちのライフプランにおける家計の最適化を図る絶好のチャンスでもあるのです。
住宅リフォームの税還付を受けない選択が招く損失